富山地方裁判所 昭和62年(わ)44号 判決 1987年5月29日
本店所在地
富山県黒部市立野八一番地
商号
株式会社サルタン
右代表者代表取締役
山田廣義
本籍
富山県黒部市山立野二九五番地の二
住居
同県同市立野八三番地
会社役員
山田廣義
昭和一六年一〇月一〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官關本倫敬、弁護人山本賢治各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社サルタンを罰金一、七〇〇万円に、被告人山田廣義を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人山田廣義に対し、この裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社サルタン(以下単に「被告会社」という。)は、富山県黒部市立野八一番地に本店を置き、総合スポーツ製品の製造及び販売等の事業を営むもの、被告人山田廣義は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山田廣義は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
第一 昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度において、所得金額が一、七四七万一、九五五円で、これに対する法人税額が六三七万七、八〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上架空外注費及び架空労務費を計上する等の行為により所得を秘匿した上、同五八年八月三一日、魚津市北鬼江三一三番地の二所在の魚津税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八万八、九九三円でこれに対する法人税額は二万六、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額六三五万一、四〇〇円を免れ、
第二 昭和五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度において、所得金額が二、八二〇万三、五七六円で、これに対する法人税額が一、一二二万七、八〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上架空外注費及び架空消耗品費を計上するとともに売上の一部を除外する等の行為により所得を秘匿した上、同五九年八月三一日、前記魚津税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三二万八、七一七円でこれに対する法人税額は七二万一、六〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額一、〇五〇万六、二〇〇円を免れ、
第三 昭和五九年七月一日から同六〇年六月三〇日までの事業年度において、所得金額が一億八、三一四万四、六七三円で、これに対する法人税額が七、六八四万三、五〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上架空外注費、架空労務費、架空消耗品費及び架空材料費を計上するとともに売上の一部を除外する等の行為により所得を秘匿した上、同六〇年八月三一日、前記魚津税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、〇七〇万一八九円でこれに対する法人税額は二、八一九万六、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告会社の右事業年度の法人税額四、八六四万六、六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示各事実について、被告人株式会社サルタン代表者山田廣義兼同山田廣義の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載されている次の番号の各証拠
判示の全事実について
甲の2ないし4、6、20、33、37、39、43、44、46ないし49、53、56、71、ないし73、91(昭和六二年押第七号の15)、93(同号の17)
乙の2ないし5、7、8
判示冒頭の事実について
甲の1
判示第一、第二の事実について
甲の81(同号の7)、87(同号の13)
判示第一、第三の事実について
甲の38
判示第二、第三の事実について
甲の19、26、34、36、40ないし42、75(同号の1)、96(同号の18)、97(同号の19)
乙の6
判示第一の事実について
甲の56、59、60、65、66、76(同号の2)、83(同号の9)、107
判示第二の事実について
甲の30、61、67、68、77(同号の3)、79(同号の5)、108
判示第三の事実について
甲の5、8、10ないし12、17、18、21、27ないし29、31、32、35、45、50ないし52、54、62、69、70、78(同号の4)、80(同号の6)、82(同号の8)、84ないし86(同号の10ないし12)、101(同号の21)、102(同号の22)、105(同号の23)、106(同号の24)、109
(法令の適用)
被告人山田廣義の判示第一、第二及び第三の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(七四条一項二号)に該当するところ、被告会社については同法一六四条一項により、いずれも同法一五九条二項の罰金刑を科することとし被告人山田廣義についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、これらは刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により判示第一、第二及び第三の各罪所定の罰金額を合算し、被告人山田廣義については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、それぞれの金額及び刑期の範囲内で、被告会社を罰金一、七〇〇万円に、被告人山田廣義を懲役一年に処し、ただし、被告人山田廣義に対しては、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、昭和五六年三月に設立された被告会社が、設立当初経営に苦しかったことなどから創業者である被告人山田が被告会社の不況時に備えるため、設立間もない同五六年七月ころから架空外注費を計上するなど不正手段を用いて脱税を図った事案であるが、その犯行態様は架空外注費を毎月継続して計上していたほか、売上が飛躍的に増大し始めた同五九年五月ころ以降は、右行為に加えて自社事務員や取引先に指示あるいは依頼して証憑書類を書替えさせるなどし、架空材料費、消耗品費の計上、売上の一部除外などの方法により実際所得を過少に計上した上、同五七年七月から同六〇年六月までの三事業年度分の各法人税につきいずれも虚偽過少の確定申告をなし、右三事業年度で合計六、五五〇万四、二〇〇円の法人税を免れたという事案であり、その逋脱率も同五八年六月期が約九六パーセント、同五九年六月期が約九四パーセント、売上額が飛躍的に増大した同六〇年六月期でさえ約六三パーセントと極めて高率であり、申告納税制度を悪用し、犯情は悪質というべきである。
また、被告人山田は被告会社の代表取締役として、本件犯行を中心となって敢行し、よって得た裏金の管理も自ら行っていたものであるが、被告会社は被告人山田の同族会社であってその利益は同被告人の利益ともいえるのであり、結局本件犯行は同被告人の信用と安泰を図りたいとの利己心に起因するものといえ、同被告人の述べるところは脱税を正当化するには程遠く、動機についても酌量の余地に乏しく、本件事犯の罪質、逋脱税額、逋脱回数とその継続性、逋脱のための不正手段の態様等にかんがみると、その刑事責任は重いものといえる。
しかしながら、他方、被告人山田は、本件発覚後脱税の事実を率直に認めて事案解明に協力的態度を示し、自己の非を認めるとともに今後林税理士の指導監督を受け再犯防止を誓約していること、被告会社は金融機関からの借入れ等の方法により本件三か年分の本税、地方税、重加算税など合計一億二、八二五万一、三五〇円を既に納付ずみであり、その一部は被告人山田の財産を処分して納付されていること、本件犯行の動機は、被告会社と被告人山田の信用と安泰を図ってのことであるが、被告人山田が逋脱蓄積した金員を個人的に費消したものではないこと、被告人らには前科がないこと、被告会社の経営状態、被告人山田の家庭事情等を考慮して主文の刑とした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大山貞雄)